医学を超えて人間の健康を追求する人生の処方箋

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健康(Mind)〜視覚遮断

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Dialog in the Dark白い杖真っ暗闇の恐怖橋渡り掘建て小屋と牧場
野球場と階段駅のホームおもちゃ遊びとブランコ体験Barで一杯!視覚情報
目・視の無い世界目のある世界いよいよ出口へ視の限定質疑応答

私達人間はこの世界に五感を持って生まれ、この現実世界においてその五感にと共に生きています。
その五感を最大限に楽しみ、味わう為スポーツ・芸術・音楽の世界に足を踏み入れ五感を研磨し、しっかりとこの大地を踏みしめて生きる事は大切な事です。
その為に授かった感覚ですからね。
一方その対極として騒がしい感覚を鎮める事によっても新しい発見があります。
感覚を存分に味わう事が自分の外面への探求とすれば、感覚を鎮める事は自己の内面への探求につながります。
Dialog in the Dark(暗闇での対話)という体験型の展覧会がありました。全く光の無い世界を盲目の人のガイドで体験して行くのです。
ここでは光の世界とは立場が逆転します、盲目の人が健常者となり、健常人が障害者になるわけです。視覚の無い世界とはどんな世界なのでしょうか? 早速足を運んでみました。
さあ、一緒に未知の世界に出発しましょう!
尚、ここから先の記載は筆者の体験記憶に頼っての記述になりますので実際とは異なる場合があります。

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Dialog in the Dark

その日はちょっと小雨がふる肌寒い日でした。
会場は外から見るとちょっとした中ホール程の大きさがあります。
受付を済ませると軽く説明がありました。1度に10人のグループが1人の盲目のガイドさんについて行くようです。
ちょっと早く着いてしまったのでソファーに座って暫く待っていると、いよいよ私の番が回ってきました。

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白い杖

真っ暗闇の恐怖

まずは黒いカーテンで仕切ってある少し薄暗い入り口にきっちり10人が集められ、各々にあったサイズの白い杖を選んでいきます。
よく盲目の方が持っているあの白い杖です。
垂直に立てた時、丁度胸の高さ程のものが良いようです。
各人が自分にあったサイズの白い杖を選び出すと、1つ奥の更にもう少し暗い部屋へと案内されました。
この部屋では目が慣れないと隣の人の顔もよく見えない程度にまで暗くなっていました。
この時点で我々のガイドを担当してくれる盲人の方が元気よく入って来ました。
ここで始めてガイドさんとご対面と言うわけですが、暗くて顔は良く分かりません。
ツアーが終わるまで、あえて私達に分からないようにしてあるようでした。
「皆さんこんにちは〜〜!!」。テンション、かなり高めのお姉さんです。
予想以上に元気よく説明が始まりました。
「まず注意事項として、杖の上端にループ状についている皮のバンドがありますが、ここには手首をかけないようにしてください!手首にかける為についているバンドなのですが、実際に歩く時にココに手首をかけておくと、何かの拍子に杖が引っかかったり挟まれたりした時に、自分もつられて引っ張られ危険なんです。」
次に「杖は利き手で、丁度鉛筆を持つように持ちましょう!」これを左右に振りながら自分の少し前の足元に障害物がないか探るのです。
「杖を持っていない反対の手は、自分の少し前に出して、手の甲を前面に出すようにして(手のひらを自分に向けるようにして)自分の体の周囲を探ってください!」
手のひらで探ると他人などに当たったり触れたりした時、失礼ではなかったかと自分自身で気になったりするからだと言う事です。
健常人では気がつかない色いろ細かい知恵があるんですね。 「それでは次の部屋に移動しましょう!!」

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真っ暗闇の恐怖

そして次の部屋へ移動すると、いよいよ暗さが増して、ほとんど人影しか見えない状態になりました。
「これから先は真っ暗になり何にも見えない世界になります。皆さんで声を掛け合って前の人に付いて来てください、途中でもう駄目と言う人がいたら大きな声で言って下さいね。どうしても駄目な方は途中で中断する事もできます。我慢しないで声をかけて下さいね。」その時、1人のお客さんが「私もう駄目です。ここで棄権します。」と完全な暗闇に入る前に申し出ていた。
全く光の無い世界に凄く恐怖を覚える人もいるのですね。
折角の機会なのに残念ですが仕方ありません、途中(まだ始まっていませんが)で退場して行きました。
お客さんは皆アイマスクをつけて入っていくのだと思っていましたが、どうやらアイマスクは着用しないでそのまま行くようです。
私も真っ暗闇は少し恐かったのですが、アイマスクしないなら、だんだん目が慣れてきて少しは見えるようになるから大丈夫だろうと思いました。
「それでは皆さんいよいよ出発です。さあ行きましょう!」
ドアを開けてみるとそこは本当に真っ暗な世界でした。
全員入り終わってドアが完全に閉まると、目を閉じても開いても全く変わらない暗闇になりました。普通日常ではどんなに暗くてもだんだん目が慣れてきて少しは見えるようになりますよね、じきに慣れてくるから大丈夫と目をパチクリパチクリさせて真っ暗闇の周囲を見渡しながらながらガイドさんの声についていきました。
「まずは足元の感触を感じてください。どんな感じですか?」
入ってすぐの所では、とび石が敷いてあるような感じで丸く平たい石の部分とその周りの土のような感触を感じました。
少しすると、ガイドさんが「こっちでーす!」と声を上げて、皆を誘導します。皆もお互いに次々「こっちでーす。」と声をかけあって行きます、助け合いの世界ですね。
ここでは本当に1人では何も出来ません。動く事すら恐いです。
じ〜っと目を凝らして行きますがまだ何も見えません。そのうち、そのうち・・。
「はい、今度は足元の感覚が変わりますよ、注意していて下さい!」 急に石畳から藁のようなフカフカした感触に変わったのでした。ん、草むらかな? 「はい、こちでーす!」どんどん進んでいきます。
待って〜〜!こんな所に、置いて行かないで下さいな〜!
この世界に入ってからもう大分時間が経っています。もう目が慣れてきても良い頃なのですが、どんなに目を凝らしてジーッと見つめても全く何も見えないではないですか、一体どういう事でしょう。
見えてしまったらDarkの意味が無くなってしまうのですが・・・。
今までに体験した事の無いような本当の真っ暗闇です。光の無い世界とはこういう世界を言うのですね。
どんなに目を凝らしても何も見えないとだんだん不安になってきます。
もし、この集団とはぐれて迷子になってしまったら、私は無事にここから外の世界へ出れるのでしょうか?この中で一人変な所に迷い込んでしまったらどうしよう?
何とも言えない不安感が湧き起こり、なるべくガイドさんの近くに移動していました。

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橋渡り

「こっちですよ〜ハイ、これから橋を渡ります。」
え〜こんな所で橋を渡るのですか。
そこにはちゃんと水の流れる音も聞こえています。
足を踏み外したらずぶ濡れになってしまうかも知れません。
「こっちですよ〜〜」の声向かって、右手に持った杖と左手の甲で周囲を必死に探ってやと橋の手すりを探り当てました。その手すりを伝いながら何とか無事に狭い橋を渡る事が出来ました。
両手で激しく周囲を探って、もう死に物狂いです!
「ハイ、今度は小さな池がありますよ、皆さん水に触れてみてください〜〜!」相変わらず元気良く進んでいきます。
おかしいな、こんなにスムーズにこの真っ暗闇の中歩いて行けるなんて、ガイドさん実は見えてるんじゃないかな?
つい不謹慎な事を考えてしまいました。
いや、そんな事は絶対にありません、真っ暗である上に盲目なのですから2重に見えないはずです。
えっ、分かってるって??ハイそうですね、念のため。
ガイドさんにとっては日常となんら変わらない世界という事でした。
ここでは健常者がハンディーキャップド(障害者)なのです。
チョロチョロと流れる水の音を頼りにそっと水に触れてみました。
普段なら別になんていう事ない普通の水でしたが、ここではヒンヤリと冷たい水に触れるだけで嬉しい気持ちになります。 皆もちょっと手を浸しては「水だ!」、「水だ!」とはしゃいでいます。
もし普通に見えてたら、見向きもしないのに・・・。ましてや触るなんて・・。
皆お互いに「ここに水があります。ココですよ。」と誘導しあって喜びを分かち合っていました。
「ハイ、では皆さん先に進みましょう、こっちですよ〜〜」

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掘建て小屋と牧場

途中竹やぶらしき所がありました、左手の甲が節のある冷たい筒にあたるのです。
そこを通って更に進んで行くと急に周りに何も触れなくなりました。
ちょっと広い空間に出たようです。
「ハイ、皆さんココは何処でしょう、少し時間をあげますので周囲を探ってみて下さい。」
言われるがままに、右手の杖と左手の甲を振り振り探検してみると、どうやら木で出来た掘建て小屋の前に、腰ほどの高さの木の柵で仕切られた広場があるような感じでした。
足元は藁が敷詰めてあるようでフカフカしている所と、コンクリートで固めてある所があります。
「皆さん分かりましたか?」 誰かが「掘建て小屋と牧場!」と叫びました。
「そうです。良く分かりましたね。」

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野球場と階段

「他の皆さんも分かりましたか?それでは次に行きますよ。こっちでーす。」
歩いて行くとだんだん人ごみのように騒がしくなって来ました・・・・。
ガヤガヤ ガヤガヤ ワ〜〜〜 キャ〜〜〜 ガヤガヤガヤガヤ
「ハイ・・野球場につきました。皆さん聞えますか?」
カキーン!
ワ〜〜〜!!ガヤガヤ・ガヤガヤ
野球場のアナウンス、観客の歓声、バットで球を打つ音、などが雑踏にまみれて聞こえてきました。うるさくてガイドさんの「こっちですよ〜」が聞き取りにくくなり、必死で声のするほうにヨチヨチとぎこちなくついて行きます。
「ハイ野球場を過ぎると今度は階段がありますよ。一度上ってから下ります足元に注意して下さい。」
あっという間にガヤガヤが聞えなくなり野球場を後にしました。
階段にひざをぶつけてはいけないと、必死に杖を振り振りまさぐって、階段の第1段を見つけると片足ずつ慎重に上がっていきます。 階段があると知らなかったら、すねをぶつけてしまいそうです。
何段か上ってもう一段上ろうとした時、「あっ」足が空中をさまよい真っ暗闇の中でバランスを崩しそうになってしまったのです。
上りの階段が終わっていてもう段が無かったのです、危ない危ない。
ヒヤッとしましたがすぐ気を取り直して、下りの段の始まりを必死に探っていました。
次を、踏み外したら大怪我間違い無しです。
恐いですね。
「暗くて恐い」とかいう感情はもうとっくにどこかへ行ってしまっていました。それよりむしろ怪我のほうが心配での「恐い」になっていました。
手すりにしがみ付きながら慎重に一段ずつ降りていきます。
ここでも最後もう一段下りるつもりが、もう段が終わっていて、つんのめりになりそうでした。
後ろの人に「ココで段が終わりまーす。」と伝えました。助け合いは大事ですね。
階段があると分かっていてこの調子ですから、見えない人にとって突然現れる階段は危険だと感じました。

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駅のホーム

駅のホーム

「ハイ、階段を下りてまっすぐ行くと今度は電車の駅のホームになります。ホームの足元には凸凹した印がついていますからそれに従って進んでください、くれぐれもホームから落ちないように注意して下さいね。」
え〜〜落ちる事もあるんですか? 洒落にならないですよ。心の中で思いました。
ガッタンゴットン、ガッタンゴットン〜
「間もなく2番線に大船行きの電車が参ります、白線の内側に下がってお待ちください。」
ピ〜〜〜プシュ〜〜
大きな駅のホームさながらの雑音が聞こえてきます。
「え〜ホームから落っこちる事もあるの〜〜」何処からともなく不安な声が聞こえてきます。やっぱり皆さん同じ事を考えているんですね。
より人ゴミの臨場感を出す為かホームは狭く設計されているようでした。
ここでも恐くて文字通り、すり足さし足で進み、その足の靴の裏ではホームに貼り付けてある凸凹を確認しながら進む方向を確認します。でも靴底が厚かったりすると結構分かりにくいものですね。
雑音がすごいのと、人ごみが凄いので押し出されてホームに落っこちてしまうのでは?
そんな不安を抱えながら、ちょっとづつ足を進めるのが精一杯です。
「では、ホームの階段を下りて先へ進みましょう。」また階段ですか・・・。
何とか一段ずつ確認しながら慎重に下りたら今度は3段程しかありませんでした。

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おもちゃ遊びとブランコ体験

ブランコ

「このまままっすぐ行くと今度は公園に着きました。公園にはブランコがあります。乗ってみたい方は順番に並んで下さい。そして、壁際にはおもちゃも沢山置いてありますから好きなものを手にとってみて下さい。」
え〜並ぶって言っても何処が一番後ろか分からないし、ブランコがブラブラしてたら場所によってはぶつかって怪我するかも知れないし・・・。
どうしようかと思っていると、ガイドさんの声が聞こえてきました「ブランコの方はこっちでーす。」
声の方に近寄ろうと杖を振りますが、周りの皆もそこに集中しているようで、杖もすぐ人にぶつかってしまい全然前に進めません。では先に空いてるであろう、おもちゃでも触ってみようかと壁の方へ歩いて行きました。
そこには木で出来た机があり、その上に箱がありその中におもちゃが、入れて置いてありました。ここにも既に何人か集まっていました。
「これ お人形よ〜 パンダちゃんみたい。」
「これは車だ!ほら触ってごらん。結構大きいぞ ネジを巻くとちゃんと走るやつだ。」 
皆まるで子供のように、はしゃぎながら楽しんでいます。
私も手を伸ばして色いろと触ってみました。ロボットから縫いぐるみ、車の模型、飛行機などがあります。
馬みたいな四つ足動物のぬいぐるみの尻尾を掴むと先の方が引っかかったのか、テンションがかかっています。ん?っと思ってもう少し引っ張って先の方を掴んでみると人の手の感触が・・・「あらっ失礼!」反対側を違う方が掴んでいたのです。
何かと厄介ですね。
「ブランコまだの方、こっちですよ〜〜」ガイドさんの声が聞こえてきました。
そろそろ空いたかな?と思いブランコの方へ行く事にしました。
「ブランコまだですー。」ガイドさんの近くに行くとすぐ誘導してくれました。
はい、ではここに座ってください。
はい、もう一人次の方ココに来てください。んん?? 
長方形の板切れの両側を鎖で吊るしてある一人乗りブランコをイメージしていたのですが、2人がけのベンチの椅子が前後に揺れるタイプのブランコだったのです。
「大丈夫ですか?では揺らしますよ〜〜しっかり捕まっていて下さい。」
真っ暗な空間の中を少しずつブランコが前後に揺れだしました。
すると、周りに視覚的に基準となる、より所がない為今の自分が一体どうなっているのか混乱し出してしまいました。
そしてブランコが前後に振り切った時、一瞬ですが無重力状態になり重力から開放されるのです。
(行った事はありませんが)真っ暗闇の無重力の中に放り出されたかのように、脳の平衡感覚が混乱してきたのです。
光の世界では、視覚的に固定された基準に対して右に曲がった左に曲がった上に行った下に行ったりと自分の位置を確認していましたが、ここではその基準がないのです。
真っ暗な宇宙空間を漂っていると上も下も、右も左も無いはずです。それと似たような何とも言えない奇妙な初めての感覚でした。
フワフワした浮遊感に加速度が加わり、数回前後しただけで気分が悪くなってきました。
4〜5回揺られた後、ちょっと気持ち悪くなってすぐに、ブランコから下りてしまいました。
「は〜〜い!!皆さーんブランコ乗りましたか?まだの方いらっしゃいますか?」
私が気持ち悪くなっているのに反して、ガイドさんは相変わらず元気良くまるでピンポンパンのお姉さんの様なテンションです。
この頃になるとガイドさんの顔を含めたイメージ像が私の想像の世界の中で出来ていました。 こんな元気のいい声を出す明るいガイドさんはきっとピンポンパンに出てきていた、あのお姉さんの様な感じなんだろうな・・・・。

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Barで一杯!

「では、皆さん、そろそろ疲れて来ませんか?一息つきましょうか?この先に私の行きつけのバーがあります。そちらに皆さんをご案内しまーす。」
途中、狭い階段を下りて行きましたが、だんだん階段にも慣れてきました。そんなにビクビクしないでも昇降可能です。
そしてバーの入り口のドアを押し開け、ドアが閉じないように後ろの人に渡して行きます。
「ここにドアがありますよ。気をつけて下さいね。」どんな時も助け合いです。
「いらっしゃいませ〜」早速お店の店員さんの声が聞こえてきました。
「こちらにお席がございます、空いている所にお座りください。」
え〜!何処が空いてるんですか〜。
そのバーは、テーブルや椅子が所狭しと並んでいるので、杖はかえって邪魔になってしまいます、狭い店内では左手が威力を発揮します。
手探りで椅子の背もたれを探しだして、お互いに声をかけあいます。
「ココ空いてますか?」
「こっちが空いてますよ〜」「ここは座ってます。」
「隣で空いている席があったら教えてくださーい。」「ここがまだ空いてます」
何とか全員席につくと、また店員さんの声が聞こえてきました。
「皆さんようこそ、いらっしゃいました。それでは、ご注文を伺います。当店では。お酒はビール、白ワイン・赤ワイン、ソフトドリンクはウーロン茶、オレンジジュース、グレープジュースを取り揃えております。お好きなものをご注文下さいませ。・・・・ではよろしいでしょうか? ・・・ビールの方いらっしゃいますか?」
「ハーイ」「はーい」「Hi」
「3名でよろしいですか?・・・ハイ、では赤ワインの方?」
「ホイ!」「1名ですね。・・・では白ワインの方?」
「は〜い」「ハイ!」「2名様ですね。・・・・ではソフトドリンクの方にうつりますけどよろしいでしょうか?・・・・・はい、ではウーロン茶の方?」
「ハイ」「はい」「2名ですね。オレンジジュースの方?」
「お願いします〜」「1名様ですね、・・・グレープジュースの方?」
「・・・・」「おりませんね、ではご注文を確認させていただきます。ビールが3名様、赤が1名様、白が2名様、ウーロン茶が2名様、オレンジジュースが1名様で全部で9名様で宜しいでしょうか?」
「私まだでした〜」と元気のいいガイドさんの声が聞こえて来ました。
皆思わず笑ってしまいました。 すっかりガイドさんの事を忘れていたのです。
「私はオレンジジュースを下さい。」
「皆さんどうですか?何か聞きたい事あったらなんでも質問してくださいね。」
暗闇の中であちこちから色いろと質問が飛んで来ました。

ワイングラス

「店員さんも盲目の方なんですか?」
「そうですよ」
「コップに飲み物を注ぐ時、こぼしてしまわないのですか?」
「大丈夫ですよ。」
「どうして、丁度いい量が分かるんですか?」
「冷たい感触がグラスを通して伝わってくるのを感じたり。液体が満ちてくる音で判断したり、グラスの重さの変化などで分かるんですよ。」
「なるほど〜〜」
そうこうしているうちに各々に飲み物が配られます。
「それでは皆さん、乾杯しましょう!カンパ〜〜イ!!!」「カンパ〜〜イ」
しっかり声掛け合いながら、そろそろとグラスを合わせて行きます。皆飲み物がみちみち入ったグラスを持って目の前に突き出しているのでぶつかったら大変です。グラスを持ち上げている高さも人それぞれですから乾杯1つでも大変です。なんとか周囲の人たちとこぼさずに乾杯し合いました。
結構狭いテーブルでしたので、一度テーブルの上にグラスを置いて手を離すと次に手で探った時どれが自分のグラスか分からなくなってしまったのでした。

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視覚情報

「これって私ので良いんですよね?」
「あっ、それは私のですよ・・」ん?
そんなやりとりが周囲から聞こえて来ました。
ちょっと間違うとグラスに手がぶつかって、こぼしてしまいそうになるのでソ〜〜ッと手で探っていきました。
お向かいに座っていた、カップルがこんな事を言い出しました。
「あれ?俺白ワインでお前赤ワイン頼んだよな、これどっちだろう?」
「飲んでみたら分かるんじゃない」「そうだな!」
「ん??これどっちだ?見えないと赤か白か分かんないぞ!」
「え〜私飲んでみようか、・・・ん〜ホントだこれどっちかな??」
「わかんないだろ」とまどっている様子です。
「赤と言われれば赤の気もするし、白と言われれば白の気もするな」
他でもガヤガヤと雑談が始まっていました。
暫くすると、ガイドさんがおもむろに口を開きました。
「人間に入ってくる情報の内、視覚からの情報が7割くらいを占めると言われています。 ここでの世界を体験すると、普段如何に視覚からの情報に多くを頼っていたか、視覚情報で物事を判断していたという事が実感されると思います。」

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目・視の無い世界

確かにそうでした。
こうして皆椅子に座ってしゃべっていると、年齢も職業も地位も関係なく、各人の肉体的特長も分からない。この世界では肉体的なコンプレックスは消失してしまうのです。
更に年齢や服装も関係なくなります・・なぜなら見えないのですから・・・。
このバーでの様子を見ていると、皆の前で発言したがらない人が多い日本人でもこの環境だと気軽に発言し合える様な気がしました。
皆に注「目」されて恥ずかしいとか、「視」線が恐いとか、「目」立つ という事が無いのですから・・。「目」が無い世界には・・・。
そして何より視覚が無い今、その代わりに耳や声がセンサーとして担う割合が増えてくるので、必然的に会話が多くなってきます。
お互いの思いやりや、助け合いも多くなってきます。
学校でも会社でも、こういう環境で会議でもやったら意外と発言し易くなって、面白い意見が色々出てくるのではないかと思ったりもしました。
特に初対面同士の集まりでは一層効果があるのではないでしょうか、誰が発言したか知られずに済むというのは結構、気楽なものですからね。
私達健常者は光の世界に生きているので、真っ暗闇の中で人の声だけを聞いた場合でも、声の質から体格・年齢・顔などを勝手に想像してしまいます。
でもそれは各人の記憶の中からその声の感覚に最も近いイメージを持ち出しているだけで本当の姿ではありません。
ですからあまりそのイメージには囚われる事はナンセンスです。
真っ暗闇で相手の体が確認できない状況の中でその人の声だけを聞いていると、何の偏見も無くその声からその人のエネルギーがダイレクトに伝わってきます。
これを、光の世界に戻って例えるならば、何も無い空間のアッチコッチから声だけが突然聞こえてくると想定してください。 実態が見えずに声だけ聞こえてくるならばその声は、エネルギーとしか感じようが無いですよね。

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目のある世界

そもそも、我々の眼で捉えられる波長の範囲はたかが知れています、7色の虹の赤〜紫の範囲しか目では見えないのです。赤外線、紫外線より外側の波長(振動)になると人間の目では捉えられない世界になってしまうのです。
「見える世界が全て」と思っていた私達は、何て視野が狭かったのでしょう!
これはその他の感覚(聴覚、味覚、触覚、嗅覚)についても同じ事で、全体から見たらごくごく狭い範囲しか捉えていないのです。
今、我々が五感を駆使して体験しているこの世界は、宇宙全体の内のほんの一部分を、視野狭窄の眼鏡でほんのチョコットだけ覗き込んでいるに過ぎないのでは無いでしょうか。
私達健常者は「何でも見えている」と思っていますが、実はほとんど見えていないのかも知れません。
幸か不幸か、我々健常者には視覚があるために、どうしても人を見た目で判断してまいます。
美しい・かっこいい・不細工・背が高い・背が低い・やせている・太っている・・・
そう言う色眼鏡(偏見)を通して世界を捉えてしまう事で、人の価値判断を誤ったり、物の本質を見過ごしてしまったりしてしまう事も少なくないのではないでしょうか。
だから私達は、それを少しでも防ぐ為、見た目を少しでも良くする事に多くの時間とエネルギーを注ぎ込みます。
我々の肉体が死に、肉体を飛び出し意識だけになった死後の世界は正にこの真っ暗な中でのエネルギーだけの世界に近いのではないでしょうか。そこには見える実態が無いのですから偏見も比較もありません、ただエネルギーがあるだけです。
とするならば、我々健常者の価値判断で「かわいそう」と思っていた盲目の方の世界の方が、よっぽど真実に近い世界を生きていて、むしろ我々視覚を持っている人間のほうが視野狭窄に陥っていて「かわいそう」だと言えるのかも知れません。
この現実世界で生きて行くには盲目である事は「不便」ではあるかも知れないですけど、人や物の本質を見つめると言う意味ではむしろ我々よりも「便利」なのかも知れません。

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いよいよ出口へ

色々な思いを馳せている内に、再び元気のよいガイドさんの声が聞こえてきました。
「では皆さんそろそろ出ましょうか!!周りに気をつけて、杖忘れないようにして下さいね。 バーのドアを出てまっすぐ進むと出口の扉がありま〜す。」
バーを出て、階段を上り出口へ向かいました。この会場に入ったばかりの頃に比べると随分スムーズに移動できるようになっていました。
暗闇に対する不安もありませんし身の危険もそんなに感じなくなっていました。
少し進んで行くとうっすらと明かりが見えてきて扉が見えてきました。
「ではここに扉がありまーす注意して下さいね〜。」
ん?? もう皆、見えてるから言わなくても大丈夫ですけど・・・。
そう、我々にはもう見えているこの扉も、薄明かりもガイドさんには見えないのでした!!
その扉を出るとまずは薄明るいトンネルに出て、そこを進んで行くと徐々に明るさが増して最後の出口に繋がっていきました。
と同時にだんだんガイドさんの顔も見えてきました。

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視の限定

その顔は私がイメージしていたピンポンパンのお姉さんとは全然違いました。
声から伝わってくるガイドさんの(私が勝手に作り上げていた)イメージと、実際に顔・体を見た時のガイドさんのイメージは全く違っていました。
どちらが良いとか悪いとかではなく、イメージとは全然違うのに少し驚きました。
視覚というのは何と我々の感覚を限定してしまうものなのでしょうか・・・。
もし、先に顔を見ていたらガイドさんに対する印象がまた違った物になっていたでしょう。
どうしても見た目の印象で、その人に対する色眼鏡(先入観)が作られてしまうからです。
よく相手の事を知りもしないのに見た目だけで「あの人なんか嫌なのよね」とかいう事ありませんか?逆に「あの人なんか惹かれるのよね」というのもありますよね。
あえて、先に顔を合わせなかったのはこの感覚を味わう為だったのでしょうか?

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質疑応答

そして我々はガイドさんを囲んでソファーに座りました。
「皆さんお疲れ様でした。真っ暗闇の世界はいかがでしたか? 」
相変わらず声は元気でテンションも高いままでした。
「ホームの階段が恐かったです。」
「そうですね、ホームの階段の所で鳥の鳴き声がしていたの聞えましたか?」
「え〜全然聞こえませんでした!」
「今、大きな駅では大体階段の所に来ると『ここは階段です』と言う合図に鳥の鳴き声を流している事が多いんですよ。今度駅に行ったら注意して聞いてみてくださいね。」
「ここの中どれくらいの距離があったんですか?」
「さて、どれくらいでしょう?どれくらいに感じましたか?」
「ん〜ん100〜150m位ですか?」
「大体ここのホールに収まるくらいですよね。」
「皆ヨチヨチ歩きでしたからこれだけ進むにも随分時間がかかりましたね。」
その後、何人か限られた人が少し感想を言いましたが、さっきのバーで気楽に自由に発言していたメンバーと同じ人達とは思えないくらい皆大人しく遠慮しているようです。
やはり周りの視線が気になって発言しにくくなるのでしょうか。
「それでは、今日はこの辺で終りにしたいと思います。皆さん本日は有難う御座いました。」
「有難う御座いましたー。」
解散になり皆各々散っていきました。 そんな中、ガイドさんだけは相変わらず、白い杖を振りながら歩いて行きました。
我々はこの展覧会の会場に始まりと終わりがありましたが、ガイドさんには始まりも終わりも無かったのです・・・・・。

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